2026年9月29日、Polaris.AI株式会社はオンラインセミナー「製造業の『図面業務』をオーダーメイドAIで変える ― 図面AI活用の最前線」を開催しました。登壇したのは、Forward Deployed Engineer / Manager の阿部遼太郎です。製造業の設計・開発現場では、図面を「探す・読む・確かめる」業務の多くが、いまも人手と経験に頼りがちです。CADやPLMが導入されていても、類似図面の探索、寸法の読み取り、検図といった作業は属人化したまま残ります。本セミナーでは、Polaris.AIが積み上げてきた図面AIの取り組みをもとに、図面業務のどこにAIが効果的に適用できるのか、そして「現場で使われ続けるAI」をどう実現するのかを、具体的な開発・検証テーマとあわせて解説しました。本レポートでは、当日の講演内容を投影資料を交えてお伝えします。なぜ、図面業務に手作業と経験頼みの判断が残るのか講演はまず、課題の構造を整理するところから始まりました。図面に関わる業務に非効率が残ってしまう理由は、大きく3つに分けられます。図1:図面業務に手作業と経験頼みの判断が残る、3つの理由<文字・寸法だけでは、判断に必要な情報が揃わない>たとえば寸法として「80」という数字が読めても、それがどこの長さを指すのか、記号が何を意味するのかは、それだけでは分かりません。複数の図や注記を照らし合わせて初めて判断できます。<判断基準が十分に明文化されていない>「この程度の差であれば同じとみなしてよい」「この条件なら流用してよい」「この場合はまずここを見る」といった基準が、ベテランの頭の中にだけ残っているケースが少なくありません。チェックシートだけでは判断できず、熟練者への確認や過去の経緯の調査が必要になります。<判断に必要な情報が、複数のシステムに分散している>図面・BOM・仕様書・評価結果などが、CAD・PLM・PDM・基幹システムに分かれて存在します。どこに何があるかを知っている人だけが参照できる、という状態が残りがちです。図面データの形式によって、取るべきアプローチは変わるもうひとつの前提として挙げられたのが、図面データの形式です。同じ部品でも、3D CAD・2D図面/PDF・紙図面のスキャン画像では、取り出せる情報と必要な処理がまったく異なります。3D CADは形状をもっとも直接的に扱えますが、材質・公差・加工条件といった情報が揃っていないことが多くあります。2D図面やPDFは数値を取り出せても、それがどこの寸法かを対応づける必要があります。紙図面のスキャンでは、文字のかすれや傾きによって、文字や線そのものを正しく取り出せない場合があります。阿部は、自社の図面で何をどこまで読み取れるのか、どのアプローチを取るべきなのかを確かめることが、まず出発点になると述べました。課題は、設計だけでなく調達・製造・検査まで広がる図面を使うのは設計部門だけではありません。調達では条件が不明で確認待ちが発生し、製造では加工条件の調整で手戻りが起き、検査では寸法・公差の手入力が残ります。そして不明点や変更があれば、設計部門への問い合わせや変更依頼として戻ってきます。講演では、この手戻りが部門をまたいで発生しやすい構造であることが、設計変更の例を使って示されました。業務 × フェーズで整理すると、AIの打ち手が見えてくるこうした課題を、図面業務(検索・流用/作成・改訂/検図/承認・変更管理/展開・後工程利用)と開発・設計フェーズの2軸で整理したものが、次の図です。図2:業務 × フェーズで整理した、AIの打ち手検索・流用であれば、形状・属性・自然言語を組み合わせた類似図面検索や、設計ナレッジ検索・RAG。検図であれば、新旧図面の差分抽出や、ルール化可能な項目の検図支援。展開・後工程利用であれば、図面からの数量・部材情報の抽出。それぞれの業務に、何らかのAIの打ち手が存在します。ここで阿部が強調したのは、同じ「図面の課題」でも、負荷が発生している部門やタイミングは会社ごとに大きく異なるという点です。自社ではどの業務のどのフェーズが課題として大きいのかを見定めることが、テーマ選びの第一歩になります。オーダーメイド開発のアプローチ図面を読み取り、人が確認して業務に使うまで図面AIの処理は、1枚の絵にすると5つの流れになります。図3:データ入力から、設計者による確認までの流れ図面やCADデータを入力し、図面に含まれる情報を分解・構造化します。目的に応じて検索・比較・判定を組み合わせ、類似図面候補のランキングや変更箇所のハイライトとして出力します。そして最終的な流用・承認の判断は、設計者が行います。ここで阿部が時間を割いて説明したのが、前段で構造化しておくことの意味でした。図面をそのまま画像としてAIに渡し、「この図面に問題はあるか」と聞くやり方も取れます。ただしその場合、なぜそう判断されたのかが分からず、間違っていたときに直しようがありません。一度構造化しておけば、どの寸法をどう読んだのか、どのルールで引っかかったのかを後から確かめられます。設計者に実際に使ってもらううえで、信頼性を担保するために重要な部分だと述べました。一つの技術では解けないから、オーダーメイドになる図面・設計AIを構成する基礎技術は、大きく6つに整理されます。図4:図面・設計AIを構成する6つの基礎技術それぞれに得意な処理と留意点があります。たとえばVLMは図面要素の分類や表題欄・注記の意味的な理解を得意とする一方、細かな寸法値や記号の厳密な読み取りは単体では不安定で、OCRやルール判定との併用が有効です。形状検索はまた別の技術が必要になります。どれか一つの技術で解決するというものではなく、対象の図面と業務に合わせて組み合わせていく。そこがオーダーメイドで作る理由になる、というのが阿部の説明でした。この考え方を踏まえ、講演では具体的な2つのテーマが掘り下げられました。実例①|図面検索AI目指すのは、ベテランが脳内で行っている照合の再現図面検索AIで目指しているのは、ベテランが頭の中で行っている照合を、誰もが短時間でできるようにすることです。ベテランは工法・材料・形状といった手がかりで自身の記憶を絞り込み、過去の実績と突き合わせています。そのプロセスを、図面から取り出した特徴データと実績データの結合として構造化する、というアプローチです。図5:3つの場面と、それぞれで目指す姿設計から図面だけが届いたときは、現状では取引先へ見積依頼を出して数週間待つことになります。その間に図面が変わり、やり直しになることもあります。これが、図面か3Dモデルを入れるだけで数秒で類似品・実績価格・差分が返ってくれば、社内で概算を確定し、設計へ「この形状を変えれば型費が下がる」と返せるようになります。見積を査定するときは、バイヤーが記憶を頼りに類似品を探し、見つからなければベテランに聞くという流れが一般的です。これを、類似品と過去の内訳が並び、「熱処理がないので単純比較は危険」といった比較の注意まで示される状態にする。新任でもベテランと同じ土俵に立てることを目指します。設計・企画が過去図面を探すときは、探すのが面倒で結局新しく描いてしまうケースがあります。形の近い過去図面が引けるようになれば、流用設計が回り始め、調達に閉じない全社基盤になります。人の判断を、AIが扱えるルールに落とし込むでは、人は何を見て参考図面を選んでいるのか。部品の形状、材質、寸法・公差、加工・表面処理という4つの観点です。単に形が近いかだけでなく、条件の違いを見比べて「これなら参考になる」と判断しています。講演では、この4つの観点がAIの設計で扱える問いへ翻訳されました。形状であれば「何が似ていれば参考候補になるか」。材質であれば「同じ材質に限定するか」。寸法・公差であれば「数値がどの箇所を指し、何を比較するか」。加工・表面処理であれば「書き方が違う注記をどう照合するか」。重要なのは、これらの問いへの答えが一概には決まらないという点です。阿部は材質を例に挙げました。ある部門では「材質が違えば加工も価格も変わるので、同じ材質に絞ってほしい」という要望が出る一方、別の部門では「違う材料も検討したいので、材質が違っても出してほしい」という要望が出る。どちらが正しいという話ではなく、パターンごとに異なるということです。だからこそ、開発の前に「誰が、どの場面で、何を決めるために探しているのか」を丁寧に聞くところから始めている、と述べました。前提となるのは、図面の構造化目指す姿を実現するうえで前提になるのが、図面の構造化です。図6:「80」という数字を『全長80mm』という項目に整理する「80」という寸法の数字が読めても、そのままでは使えません。寸法線が部品のどこにつながっているかを捉えて、『全長80mm』という項目に整理する。ここまでやって初めて、後続の検索・比較の処理で使えるようになります。そのうえで、形状の近い候補をAIで探し、設定した条件で絞り込んでいきます。図7:候補の提示と、違いの強調表示材質条件に合わない候補は除外し、残った候補については公差やサイズの何が違うのかを強調して見せます。どの違いが見積もりにとって重要かは、使う人や部署によって変わります。ここでのオーダーメイド開発のポイントとして挙げられたのが、現場の方が実際に選んだ「参考になる図面」を正解として、検索基準と比較画面にフィードバックしていくことです。何を似ているとみなすか、何を必須条件から外せないか、何を比較して見せるか。これを現場と一緒に決めていくことで、「図面は出てくるが、使える情報になっていない」という状態を抜け出せる、という説明でした。実例②|検図AI設計で押さえる5つの論点検図は、ベテランに負荷が集中しやすい業務の代表です。定型的なルールのチェックとデザインレビューの両方が含まれますが、講演では前者に絞って解説されました。寸法漏れ、二重寸法、寸法の重複指定といった、確認項目を定義できるチェックが対象です。検図AIの設計では、5つの論点を一連の流れとして設計します。図8:検図AIの設計で押さえる5つの論点読み取りでは「どの形式から、何の情報を取り出すか」。対応付けでは「形状・寸法・注記、複数の図の関係をどう結びつけるか」。判定基準では「何を不備とし、どの条件で指摘するか」。例外処理では「注記や個別条件をどう反映するか」。そして確認・改善では「誤検出や見逃しをどう確認し、改善するか」。読み取りと対応付けの方法は、図面の状態によって変わります。CADからエクスポートしたベクターPDFであれば、線や文字の情報を直接読み取れるため、PDF解析を中心に行います。注記の文章を理解して反映させる部分にはLLMを活用します。紙図面のスキャンであれば、画像補正と文字認識から進める必要があります。工程や図面の状態に合わせて、アプローチを柔軟に選ぶことが求められます。自社の検図基準を、判定にどう反映するか阿部が「かなり重要」と位置づけたのが、3つ目と4つ目の論点です。自社の検図基準やデザインスタンダードを、いかに判定に反映させるか。図9:注記の適用範囲を、判定ルールに落とし込む具体例として挙げられたのが、注記の扱いです。「特に指示のない面取りはC0.5とする」という注記がある図面で、この注記を読まずに寸法情報だけから寸法漏れを検出すると、誤検出になってしまいます。注記の内容と適用範囲を読み取り、登録したルールに対応づける必要があります。同時に重要なのが、人に戻す条件も定めておくことです。対象箇所が不明な場合や、注記から落とし込んだルールを当てはめられない場合には、無理に判定せず「要確認」として人に戻します。この設計ができるのも、基準を明確に持っているからこそだと説明されました。最後の確認・改善では、システムが示した指摘箇所と根拠を人が確認し、採否・理由・見逃しを記録します。その記録をルールに反映させていくことで、精度を上げていきます。検図の例を総括して、阿部は次のように述べました。読み取って、結びつけて、基準と照合する。そのうえで例外処理と人の確認まで含めた5つを、一連の流れとして設計することが重要である。特に判定基準と例外処理の部分は各社の検図基準や運用に合わせて作り込む領域であり、オーダーメイド開発の価値がもっとも発揮される部分である、という整理です。図面AIの開発・検証テーマと取り組み講演の後半では、実際に取り組んでいるテーマが、進捗段階(実用レベル/開発・検証中/研究開発)とあわせて紹介されました。図面上の数量拾い(実用レベル)図10:図面から機材を検出し、見積もりを作成する新旧図面の差分整理(開発・検証中)平面図から機材情報を抽出し、種類ごとに数えて、自社カタログと突き合わせて見積もりまで作成する取り組みです。従来は図面を印刷し、蛍光ペンでマークを付けながら手で拾っていた作業にあたります。阿部は、この探す負荷によって見積もり業務に滞りが生じていた、と現場の状況を説明しました。図11:意味のある変更だけを抽出する2D図面から3D CADを自動生成(研究開発)設計変更が加わった際に、まず縮尺や位置を揃えたうえで、意味のある差分だけを抽出します。穴径が変わった、材質が変わったといった設計内容の変更は差分として明示する一方、寸法値は同じで文字の表示位置が動いただけ、といった表示上の違いは検出しません。実際に設計変更として反映された部分だけがハイライトされる仕組みです。図12:複数の2D図面の関係性を理解し、3Dモデルとして再構築する研究開発段階の取り組みとして紹介されたのが、複数の2D図面の対応関係を理解し、3D CADモデルとして再構築する技術です。単純な形状であっても、図面間の対応関係の理解や欠損情報の解釈が必要で、自動3D化は容易ではありません。実データを用いた検証では、形状の復元や幾何情報の推定について一定の有効性を確認できた段階にあります。自社の強みを活かす、図面AIの取り組み方汎用ツールと個別開発を、どう使い分けるか一般論として、共通的・定型的な業務は汎用ツール、企業固有の判断やシステム連携が重要な業務は個別開発が向きます。汎用ツールは導入が速く初期費用も小さい反面、カスタマイズ性の制約やデータの扱いについて確認が必要になります。個別開発は初期費用がかさむ一方、判断基準や業務仕様を自社の資産として蓄積でき、ベンダー依存も小さくなります。図面AIに当てはめると、判断の観点は「図面・データ」「判断基準」「業務への組み込み」の3つです。対象の形式・表記を必要な精度で処理できるのか。標準機能や設定で必要な検索・照合・判定ができるのか。結果の確認・修正や他システムへの受け渡しを、ツールの標準機能で行えるのか。いずれかで自社固有の要件が強ければ、個別開発の検討対象になります。阿部は、最近よく寄せられる相談として、取引先から預かった図面は社外に出しにくく、オンプレミスでの処理を求める声が多いことを挙げました。これも個別開発が選ばれる理由のひとつになっています。現場で使われる図面AIに必要な、3つの力講演のまとめとして示されたのが、ソリューションの実現にはモデル導入だけでは足りず、3つの力が必要だという整理です。図13:図面の構造化力/判断基準の形式知化力/現場業務への実装力①図面の構造化力は、形状・寸法・記号の関係を捉える力です。画像処理・CAD解析・OCR・VLMなど複数の技術を組み合わせ、実際の図面で検証しながら、対象業務に必要な情報と対応関係を取り出す方法を設計します。②判断基準の形式知化力は、熟練者の判断を整理する力です。規程やチェックシートに加え、経験に基づく判断の根拠や適用条件を明確にします。現場へのヒアリングと過去の判断事例の分析を通じて、システムで判定する範囲と、人に確認を委ねる範囲を具体化します。③現場業務への実装力は、AIの出力を現場で使える仕組みにする力です。担当者の確認・修正手順、既存システムとの連携、セキュリティや運用条件を踏まえ、確認画面・データ連携・実行環境を一体で設計します。阿部は、この3つはどれか一つだけでは導入できず、合わせて進める必要があると述べました。どれかが抜けていると、PoCの検証ではうまくいっても、本番導入の段階で立ち行かなくなります。Polaris.AIは、この3つを業務整理からAI基盤構築、実運用への落とし込みまで一気通貫で支援しています。最初のテーマと、検証範囲をどう決めるか図14:着手しやすいテーマから始め、段階的に適用範囲を広げる進め方としては、既存データを活かしやすく早く効果を実感できるテーマから始め、そこでの成果を踏まえて、より高度な判断支援へと広げていくステップが示されました。STEP 1は類似図面検索、設計ナレッジ検索、明文化されたルールによる検図支援、仕様書・カタログ読み取り、新旧図面比較、数量算出など。STEP 2は設計妥当性や暗黙知を含む判断支援、変更影響分析、高度な検図支援、回路設計支援、2D図面からの3Dモデル化などです。ただし阿部は、この配置はあくまで一般論であり、お客様の図面の状態や既存ツール・データの整備状況によって、どれが着手しやすいかは変わると補足しました。そのうえで、まず10枚から数十枚程度の実際の図面で、どこまで読めるのかを一緒に確かめるところから始めるのが近道だと述べ、相談の段階できれいなデータが揃っている必要はまったくない、と付け加えて、講演を締めくくりました。おわりにPolaris.AIは、AIの研究開発から社会実装まで一貫して手がけています。図面AIにおいても、精度検証で終わらせず、閉域環境での本開発から運用設計までを自ら担うことを重視しています。「自社の図面でどこまで読み取れるのか」「どの業務から着手すべきか」といった、構想段階でのご相談も承っています。実際の図面を10枚から数十枚お預かりし、どこまで読めるかを確かめるところからご一緒することが可能です。詳細は以下よりご覧ください。図面×AI活用ソリューション紹介サイト:https://polarisai.co.jp/lp/drawingai紹介資料のダウンロード:https://polarisai.co.jp/download/drawingaiお問い合わせ:https://polarisai.co.jp/contact